ミニチュアカー ミュージアム

VIP CAR VIPの車

イタリアのVIPカー

 イタリアのVIPカーとしてイタリア国王公用車、イタリア大統領専用車とバチカン市国のローマ法王専用車を紹介します。これらのイタリアのVIP車についてはまとまった情報源がみつからないので、各種の断片的な情報をまとめて記載しています。そのためやや正確さにかける部分もあると思いますが、あしからずご了承ください。

イタリアの歴史と政治体制

 まずイタリアの政治体制について、簡単に触れておきます。1861年にイタリアは立憲君主制のイタリア王国として統一されました。初代の国王はヴィットーリオ エマヌエーレ2世でした。第一次大戦では連合国側として参戦し戦勝国となりましたが、戦争の経済的負担は戦後に過大なインフレーションを引き起こしました。経済の破綻による社会不安の増大は、ムッソリーニ率いるファシスト党を台頭させ第二次大戦前にはムッソリーニの独裁体制となりました。

 1936年にムッソリーニ首相と当時の国王ヴィットーリオ エマヌエーレ 3世は日独伊三国同盟を結び、その後に起こった第二次大戦には枢軸国側として参戦しましたが、無条件降伏で敗戦を迎えます。戦後の1946年の国民投票で王政が廃止され、共和制を採用したイタリア共和国が生まれました。国家元首は共和国大統領ですが、実質的な権限はあまりないようです。日本と同じような議院内閣制を採用しており、大統領が指名し議会が承認する首相が実質的な権限を持っているようです。2011年11月現在の大統領はジョルジョ ナポリターノ大統領、首相はマリオ モンティ首相です。

国王 ヴィットーリオ エマヌエーレ 3世の車

 第2代イタリア国王ウンベルト1世(在位 1878-1900年)の時代は、まだ実用的な自動車が登場していません。したがってウンベルト1世は多分立派な馬車を使っていたと思われますが、その辺については記載された資料がみつからないので馬車については省略します。第3代イタリア国王のヴィットーリオ エマヌエーレ 3世(在位 1900-1946年)の時代になると自動車が実用化されましたので、この国王は自動車を使用したようです。

 

 第二次大戦前のイタリアの高級車としては、イソッタ フラスキーニ、ランチア、フィアットなどがありました。国王が使う高級車ということであればイソッタ フラスキーニあたりの特別仕様車ではないかと思ってWEBで探してみたのですが、そのような資料は見つかりませんでした。国王とはいっても、当時は立憲君主制の時代ですから、華美な特別仕様車を使うようなことはなかったようです。(実際に以下で紹介するのも地味な公用車です) エマヌエーレ 3世の使用した車と言うことで何台かのミニカーがありますのでそれを紹介します。

 

 まず最初はフィアット 519Sのリムジーンです。フィアット 519は1923年に登場したフィアットの最上級車です。全長が5mを越える大型車で6気筒4.8L(77HP)エンジンを搭載し、最高速116km/hの性能でした。(519Sはその高性能版です)

 

 マントを着て立っているのが、エマヌエーレ 3世ということです。軍隊の制帽を被り立派な口髭を生やした風貌は古い写真でみるエマヌエーレ 3世になんとなく似ています。ただ1929年という設定ですから、60歳ぐらいのはずですが、ずいぶん若作りのフィギュアになっています。

 

 メーカーはリオ(型番144)で、通常の519Sのモデルにフィギュアを追加したものでした。なお519Sは単に色を黒にしただけで、特別な変更はされていません。ミニカーの紙箱にはこの車がエマヌエーレ 3世と一緒に写っている当時の写真が付けられていますので、国王が使用した519Sは実在したようです。

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FIAT 519 LIMOUSINE VITTORIO EMANUELE Ⅲ  1929 RIO 1/43
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 2台目はフィアット 2800のカブリオレ リムジーンです。この車はWEBの資料によると、国王の公用車として使われた車のようです。戦後王政が廃止された後はイタリア共和国大統領の公用車としても使われたようです。イタリア国旗が付けられていることが、公用車の証です。

 

 フィアット 2800は1938年に登場した戦前最後のフィアットの最高級車で、600台ほどしか生産されていません。全長5.3mの大型車で、6気筒2.9L(85HP)エンジンを搭載し、最高速130km/hの性能でした。

 

 ミニカーはイクソ製で、 フランスのミニカー付き雑誌「VOITURES CLASSIQUES」シリーズの47番で発売されています。(画像は同シリーズのWEBサイトから拝借) なおムッソリーニとヒットラーのフィギュアが付いた特注品もあるようです。

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FIAT 2800 VITTORIO EMANUELE Ⅲ 1939 IXO 1/43

 

   

 以上の2台のほかにも、エマヌエーレ 3世が1915-1918年に使用したとされるフィアット 501の軍用車(Saetta del Re :英語でThe King's arrowの意)がリオの型番4317で発売されています。この車についてはモデルとなったと思われる実車がイタリアの軍事博物館(Museo storico della Motorizzazione Militare)にあります。国王が軍隊を視察する際に使われた車のようです。

 

  リオの501はヘッドライトを追加し後席のドアにイタリア王室の紋章を付けるなどオリジナルを変えてありますが、WEBサイトの画像と比較するとあまり忠実にモデル化しているとは言い難いところがあります。かなり高い値段のミニカーですから、値段相応に手を掛けてもらいたいところですが、イタリア国内で製造するとこれで精一杯なのかもしれません。(画像はRIOのWEBサイトから借用)

fiat 501

FIAT 501 'Saetta del Re' 1910 RIO 1/43
   

ムッソリーニの独裁体制時代の車

 1922年にファシストによるクーデター(ローマ進軍)が成功し、以後イタリアは1943年までの約20年間ファシスト政権が続きました。以下はその当時のムッソリーニ総裁に関連したミニカーを紹介します。

 

 まずはランチア ディラムダのリムジーンです。車が党の公用車だったのかどうかは分かりませんが、右側の人物がムッソリーニ総裁で、もう一人の帽子を被った人物がファシスト党書記長スタラーチェということのようです。(なお確証がないので人物は逆かもしれません どちらも顔があまりはっきりしないので)

 

 ランチア ディラムダは1929年に登場したランチアの大型高級車で、V型8気筒4L(100HP)エンジンを搭載し、最高速125km/hの性能でした。1935年までに約1700台しか生産されていません。

 

 メーカーはリオ(型番143)で、これも上述のフィアットと同様に通常のディラムダのモデルにフィギュアを追加しただけのものです。このミニカーの紙箱にも、この車と該当する人物が一緒に写っている当時の写真が付けられています。フィギュアの服装はその写真と同じように出来ています。

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LANCIA DILAMBDA 1930 RIO 1/43
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 次はフィアットの501の軍用車で、黒色の501にフィギュアを付けたものです。それで、フィギュアがムッソリーニかというと、さにあらず、ムッソリーニを護衛する親衛隊の兵隊ということです。ファシスト党の制服(黒シャツ)を着たフィギュアは、かなりリアルに出来ています。 

 

 ファット501は1919年に発表された小型大衆車で、4気筒1.5L(23HP)エンジンを搭載し、最高速70km/h程の性能でした。当時の量産車で数万台が生産されており、軍用車としてもたくさん使われたのでしょう。エマヌエーレ 3世が使った車としても、上記で紹介しています。

fiat 501 military

FIAT 501 MILITARY 1925 RIO 1/43
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 第二次世界大戦以前のグランプリ レース(現在のF1相当)は、国威発揚の道具として使われました。ドイツのヒットラーは自らは運転しなかったそうですが、自動車は好きだったとのことで、自動車を対外的な宣伝の道具として利用しました。彼はベンツやアウトウニオンを援助して、1934年から第二次大戦までのGPレースで圧倒的な強さを示してドイツの国力を誇示しました。

 

 ムッソリーニも自動車好きで、彼のプライベートの車はアルファ ロメオのスポーツカーだったそうです。彼はアルファ ロメオなどの自動車メーカーを援助し、レース活動も支援していたそうです。ファシスト政権下の1932年に登場したアルファ ロメオ P3はグランプリ レースで圧倒的な強さを示しました。アルファ ロメオの勢いは、上述したドイツ勢が登場するまで続きました。

alfa romeo p3
ALFA ROMEO P3 1932  RIO 1/43

 右上のミニカーはその 圧倒的な強さを示したアルファ ロメオ P3で、ドライバーはムッソリーニです。実際に彼が運転したかどうかは分かりませんが、彼がレース活動を支援していたことからこのような状況もあったのでしょう。フィギュアはこれもあまりはっきりしない出来映えです。同じリオ製で軍服を着たムッソリーニがアルファ ロメオ 1750のオープンカーでパレードしているものもあります。

   

戦後の大統領専用車

 戦後 王政が廃止されイタリア共和国となり、初代の共和国大統領としてエンリコ・デ・ニコラが1948年に就任しました。エンリコ・デ・ニコラ大統領は健康状態を理由にすぐに辞任し、第2代としてルイージ・エイナウディ大統領(1948-1955)が就任しました。この当時の大統領公用車は上述したイタリア国王の公用車であったフィアット 2800 カブリオレ リムジーンが使われたようです。(ルイージ・エイナウディ大統領が1950年に発売されたアルファ ロメオ 1900を公用車に使ったということが書いてある資料がありますが、はっきりしません)

 

 第3代ジョヴァンニ・グロンキ大統領(1955-1962)時代の1961年に、イギリスのエリザベス女王がイタリアを訪問されることになり、これに合わせてランチア フラミニアをベースにした大統領専用車が製作されることになりました。当時のイタリアの高級車としてはフィアット 2100あたりもあったのですが、今も昔もランチアはフィアットより格上なので、ランチアが選ばれたのでしょう。またフラミニアはランチアの最上級車ということだけではなく、ピニンファリーナがデザインした世界で一番優美なセダンであると評価されていたことも大統領専用車に選ばれた理由でしょう。そのフラミニアのホイールベースを延長した特注仕様の大統領専用車がピニンファリーナによって製作されました。

 

 全長は5.46mとオリジナルより60cmも長い堂々たるサイズで、中央の2人分の補助席を使って7人が乗車できるランドレー形式(後部座席部分が幌で開閉できる)のリムジンです。エンジンはオリジナルのV型6気筒2.5L(102HP)のままですが、パレードで長時間徐行できるようにギヤ比が変えられているので、最高速は120km/hとなっています。公用車としては明るめの紺色のボディカラーに黒いコノリーレザーの内装というイタリアらしいしゃれた仕上げは、さすがはピニンファリーナと納得してしまいます。1960年代の車なのでラジオぐらいしか特別な装備は付けられていないようで、当然ながら装甲もされていません。透明なガラス製のハードトップが後に追加されたようですが、これも防弾というわけではないようです。この車は4台が製作され、それぞれに馬の名前が付けられていたとのことです。

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LANCIA FLAMINIA PRESIDENZIALE 1961 STARLINE 1/43 (マウスカーソルを画像に載せクリックすると画像が変わります)
   
 50年も前に作られた車ですが、この車はまだ現役だそうです。ただし使用されるのは大統領就任パレードだけで、従って大統領の任期である7年に一度だけということです。最近では2006年の第11代ジョルジョ・ナポリターノ大統領の就任パレードで使われたとのことです。
 

 ミニカーはイタリアのミニカー付き雑誌「ランチア コレクション(LANCIA STORY COLLECTION)」用に2008年頃に作られたもので、ドイツのスターライン(STARLINE MODELS)製です。2011年になってこのミニカーにフィギュアを付いたバリエーションがスターラインのカタログモデルとして数点販売されています。フェンダーに国旗が付けられ、フィギュアが結構良くできています。以下がそれらのバリエーションのフィギュア部分の画像です。なお画像はありませんが、ジオケール(GIOCHER)製で第10代チャンピ大統領とベルルスコーニ首相のフィギュアが付いた物もあります。
左から順に 2009年 第11代ナポリターノ大統領、1965年 第5代サーラガト大統領とドゴール フランス大統領、1961年 エリザベス女王夫妻

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 第4代アントニオ・セーニ大統領(1962-1964)の時代にはフィアット 2300のカブリオレ仕様が大統領専用車として使われました。フィアット 2300は直列6気筒2.3L(117HP)エンジンを搭載した1960年代のフィアットの最上級車で、ホイールベースを延ばしたリムジーン仕様もありました。大統領専用車は多分そのリムジーン仕様のランドレーです。イタリアの軍事博物館に保存されていて、画像を博物館のWEBサイトで見ることが出来ます。

 

 第5代ジュゼッペ・サーラガト大統領(1964-1971)の時代には、フィアット 130が大統領車として使われたようです。フィアット 130は1969年に登場した2300の後継車で、全長4.75mの角張ったボディにV型6気筒2.9L(140HP)エンジンを搭載し、ボルグ ワーナー製の3段自動変速機を介して1.5tのボディを最高速180km/hで走らせました。4輪独立サスペンション、4輪ディスクブレーキなど当時としては進歩的な技術を採用していました。なお1970年代になるとフィアット グループの高級車の位置づけがランチアに移ったことにより、6気筒エンジンを積む高級車はフィアットでは130が最後となりました。

 

 ミニカーはスターライン製です。フィアット最後の高級車ののイメージをうまく再現していて、なかなかの出来映えです。

fiat 130
FIAT 130 1969 STARLINE 1/43

 

 第7代アレッサンドロ・ペルティーニ大統領(1978-1985)の時代になると、装甲を施した大統領専用車が初めて導入されました。この車は1979年に登場したアルファロメオのアルファ 6(セイ)をベースにしており、1980年に2台が製作されました。アルファ 6は中型車アルフェッタをベースにして開発された最上級車で、V型6気筒2.5L(158HP)エンジンを搭載し最高速195km/hの性能でした。装甲の詳細などは分かりませんが、ボディはカロッツェリア・ザガートが担当したようです。見た目は国旗と補助灯が付いているぐらいで、普通のアルファ 6とあまり変わりがありません。 アルファ 6の公用車の画像 (なおアルファ 6は何故か量産ミニカーではモデル化されていません)

 

 このアルファ 6は大統領にはあまり好まれなかったようで、2年後の1982年には新しい大統領専用車が導入されました。それは1976年に発表されたマセラティ クワトロポルテ IIIをベースにした車で、この車も装甲が施されていたようです。全長4.93mのボディにオプション設定されたV型8気筒4.9L(280HP)エンジンを搭載したクワトロポルテ IIIは、アルファ 6より格段に見栄えが良く迫力があったと思います。(どちらも特注車ですから、値段はあまり変わらないかも) この車もイタリアの軍事博物館に保存されていて、画像を博物館のWEBサイトで見ることが出来ます。 (このクワトロポルテ IIIも何故か量産ミニカーでは適当な物がありません)

 
 大統領が交代すると大統領車が入れ替わるというのは、どこの国でも同じようです。どこかの国のように毎年総理大臣が替わっている国では無理ですが、大統領は任期が長いので大統領特権で出来るのでしょう。これはイタリアでも同じようで、第8代フランチェスコ・コッシガ大統領(1985-1992)は以下の大統領車を使っていました。

 

 まずは1984年に発売されたランチア テーマで、ランチアはこの頃にはフィアット・グループ内のトップ・ブランドに位置づけられていました。その為最上級車のランチア テーマはイタリアの公用車や社有車としてよく使われました。テーマにはセダン(全長4.59m)、ワゴン、ホイールベースを延長したリムジン(全長4.89m)がありました。大統領専用車はこのストレッチド・リムジンで、当然ながら装甲されていました。エンジンは4気筒2L(165HP)DOHCターボだったと書かれている資料がありますが、本当かどうかは疑問です。(ただ一番大きいエンジンでもV型8気筒の3L(215HP)ですが)


ミニカーはエジソン製で、通常のセダンのモデルです。ジウジアーロのデザインで、シンプルで品の良いデザインです。イタリアの高級車はあまり押し出しが強くありません。

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LANCIA THEMA TURBO 1988 EGISON 1/43
 

 1987年に発売されたアルファ ロメオ 164も大統領車に使われました。164は上述したアルファ 6を後継するアルファ ロメオの最上級車でした。なお164はフィアット、ランチア、サーブ、アルファ ロメオの4社がシャーシを共同開発した「Tipo4 プロジェクト」で開発された前輪駆動車で、上記ランチア テーマとは兄弟車でした。なおデザインは164だけがピニンファリーナで、後の3車はイタルデザイン(ジゥジアーロ)です。エンジンは4気筒2L(144HP)と6気筒3L(188HP)がありましたが、大統領車には6気筒が使われたと思われます。なお164の大統領車は画像などが見つからないので、詳細は不明です。

 

 ミニカーはミニチャンプス製で、画像は同社のサイトから借用しました。兄弟車のランチア テーマよりスポーティな感じがするのは、アルファ ロメオのグリルとピニンファリーナの味付けが成せる技でしょうか。

alfa romeo 164
ALFA ROMEO 164 1987 MINICHAMPS 1/43
   
 第9代オスカル・ルイージ・スカルファロ大統領(1992-1999)は、上述のランチア テーマやアルファ ロメオ 164を引き継いだようです。 彼が就任していた1994年にはテーマの後継車としてカッパが登場しています。カッパ(ギリシア文字のκ)はテーマをベースにした車で、アルファ ロメオとの競合を避ける為、スポーティさよりも豪華さや上品さを強調したモデルでした。イタリア国内では公用車や富裕層の自家用車として使われましたが、ランチアとしてはやや地味な存在のモデルでした。このカッパも大統領官邸のクイリナーレ宮(Palazzo del Quilinale)に大統領車として追加されたようです。この大統領車の詳細は不明ですが、リムジーンではなく通常のセダンだったようです。

 

 ミニカーはイタリアのミニカー付き雑誌「ランチア コレクション(LANCIA STORY COLLECTION)」用に作られたモデルで、メーカーはノレブです。

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LANCIA KAPPA SEDAN 1994 1/43
   

 第10代カルロ・アツェリオ・チャンピ大統領(1999-2006)時代の2001年になるとカッパの後継としてテージスが登場しています。テージスも大統領車として追加されますが、この車はストレッチド・リムジン・タイプの特別仕様の大統領専用車だったようです。実車の画像はこのWEB サイトで見ることが出来ます。

 

 2003年にフィアットから贈呈されたこの車は2台有り、それぞれナポリ 1(Naples 1)とナポリ2という名前が付けられています。全長は5.49mで通常のセダンより60cm長く、V型6気筒3.2L(230HP)エンジンを搭載しています。当然ながら装甲されていますが、どのような装甲なのかはわかりません。実車画像を見ると室内には運転席とのパーティションが無く、広々とした豪華な4人乗り仕様となっています。(パーティションが無いので厳密にはリムジーンではない?) 

 

 ミニカーはイタリアのABC BRIANZAというブランドの物でレジン製です。(画像はWEBから借用しました) テージスは個人的にはあまり高級車らしい顔付ではないと思うのですが、この大統領専用車もなんとなくユーモラスな感じがします。
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LANCIA THESIS PRESIDENZIALE 2003 ABC BRIANZA 1/43
 
   
 2003年のテージス大統領専用車に続いて、チャンプ大統領には2004年にもマセラティ社からクワトロポルテの大統領専用車が贈呈されました。このクワトロポルテは2003年に発売された5代目で、親会社となったフェラーリのV型8気筒4.2L(400HP)DOHCエンジンなどフェラーリの技術が流用され、従来モデルより性能が格段と向上しています。実車の画像はこのWEB サイトで見ることが出来ます。

 

 外観的には通常のクワトロポルテと同じで国旗を立てるポールが追加されているだけですが、装甲などの安全装置が組み込まれた特別仕様車です。同じ仕様でボディカラーがシルバーのクワトロポルテをベルルスコーニ元首相が使用していたそうです。

 

 チャンピ大統領が嬉しそうな表情で運転席に座っている画像が有りますが、この車を注文したのは大統領ご自身だそうです。1982年にもクワトロポルテ IIIが大統領車となっていますが、この様な高級GTカーを公用車にしてしてしまうのがイタリアらしいところでしょうか。(イタリア車の対外的な宣伝の意味合いもあるのでしょうが)

 ミニカーはイクソの最近の物です。ボディカラー、国旗ホルダーなど実車に忠実に出来ています。

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MASERATI QUATTROPORTE PRESIDENZIALE 2004  IXO 1/43
 
 現在の大統領は第11代ジョルジョ・ナポリターノ大統領(2006-)です。新しい大統領車に関する情報がないので、ナポリターノ大統領はチャンプ大統領の車を引き継いだようです。2010年にランチア テージス大統領車(ただしストレッチド・リムジーンではなく通常セダン)を利用されている旨のWEB上記事がありました。80歳を越えるご高齢なので、多分クワトロポルテよりはテージスの方がお好みだと察します。

 

 なおテージスは外国製の高級車に商業的に対抗できず、2009年に生産中止になっています。したがって現在のイタリアには公用車向けの適当な高級車がなく、ドイツのA車やB車に国内公用車市場を荒らされているそうです。(ベルルスコーニ元首相はアウディ A8の防弾仕様車、下院議長はBMW 7を愛用しているらしい) 2012年にはランチア テーマの新型が登場する予定で、この車は提携先のクライスラー300がベースなのでアメリカ車的ですが、この車が新しい国産公用車の候補として有望かもしれません。
 

バチカン市国 ローマ教皇専用車

バチカン市国概要

 バチカン市国はイタリアのローマ市内にある世界最小の主権国家で、カトリック教会の総本山「ローマ教皇庁」がある場所です。ローマ教皇庁のあるバチカン地区がバチカン市国としてイタリア政府から政治的に独立したのは1929年のことで、当時のムッソリーニ首相とローマ教皇庁の合意によって成立しました。国の面積は0.5平方.kmほど(東京ディズニーシーの面積より少し狭い)で、国民(教会関係者)の人口は約800人、ローマ教皇庁によって統治されています。

ローマ教皇の馬車

 ローマ教皇庁は全世界のカトリック教会を統率する組織で、そのトップがローマ教皇です。(なお日本では教皇庁ではなく法王庁とも呼びますが、教皇庁が正式なようです) 全世界のカトリック教徒の精神的指導者であるローマ教皇は全世界的なVIPで、外出される際には当然ながら特別な乗り物を利用されています。その原型は教皇用の王座(椅子)を据え付けた御輿玉座で、教皇の従者が肩で担ぐものでした。(要するに日本の御神輿のような物)

 

 御輿玉座では、長距離の移動は出来ません。従って遠くに出かける場合には、馬車が使われました。画像は1800年代に教皇が使用したとされる馬車のモデルです。4頭立てのやや大型の馬車で、屋根には金色の飾りが付き、ドアには教皇庁の紋章(以下の画像)が付いています。

emblem

 モデルはブルムの初期の珍しい馬車シリーズの物で、1990年頃に発売されています。画像はカタログから借用しています。

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BERLINA PAPALE 1800s BRUMM H04 1/43
(カーソルを画像に載せると拡大画像に変わります)
   

初期のローマ教皇専用車

 20世紀の初頭になると実用的な自動車が登場してきましたが、バチカンの公式行事に自動車が初めて使用されたのは1922年の教皇ピウス11世(1922-1939)の時代だったそうです。最初に使用された車は、イタリアで最初に4輪自動車を生産したビアンキ社のタイプ15でした。タイプ15は1920年に発表された4気筒1.7Lエンジンを搭載した中型車で、当時としては信頼性が高い車だったようです。その後同じビアンキ社のタイプ20(2.3Lエンジン搭載)も1926年に使われました。 これらの車がどうような使い方をされたのかはっきりしませんが、教皇ご自身が乗ることはあまり無かったのではないかと思われます。

 

 1929年にバチカン市国が成立した際に、イタリア政府との協定で馬車を使用することが廃止されたので、教皇はバチカン市国の外で馬車以外の移動手段が必要となりました。そこでこの年にはバチカン市国の誕生を祝って教皇に自動車がたくさん寄進されました。

 

 まず1929年にフィアットが525Nを教皇ピウス11世に献上しています。フィアット525Nは1929年に登場したフィアットの最上級車で、全長は5m、6気筒3.7L(68HP)エンジンを搭載し、最高速97km/hの性能でした。献上された車は教皇の為にフィアットが特注したもので、室内の装飾には金や金メッキされたパネルが使われ、革とシルク製の特別な教皇用の玉座が備え付けられていました。フィアット525Nの実車(重いページですが、下の方に画像があります)

 

 ミニカーはソリド製で、1960年代から80年代まで長く作られていました。別のモデルのバリエーションとして作られたものではなく、最初から献上車をモデル化したものでした。その為後部座席には玉座がモールドされ、ラジエータ上のマスコットも法王庁のエンブレムになっています。実車はこのようなオープンカーではなくセダンだったようですが、教皇と運転手のフィギュアが良く見えるようにオープンカーとしてモデル化したものと思われます。50年も前のミニカーとしては、実に良くできています。

fiat 525n papamobile
FIAT 525N 1929 SOLIDO 1/43
(カーソルを画像に載せると側面画像、クリックするとフィギュアの拡大画像に変わります)
   
 同じ1929年には上記の525N以外にもイソッタ フラスキーニ 8A、グラハム ペイジ 837、シトロエン C6が献上されています。イソッタ フラスキーニ 8Aは1924年に発表されたイタリアの高級車で、直列8気筒7.4L(115HP)エンジンを搭載し最高速135km/hの性能でした。教皇に献上された車の詳細は分かりませんが、以下の左側の画像が当時のイソッタ フラスキーニ 8A リムジーンのモデルでリオ製です。多分これと同じような車が献上されたのでしょう。


 グラハム ペイジ 837はアメリカの高級車で、スーパーチャージャー付の8気筒5.3L(150HP)エンジンを搭載していました。(グラハム ペイジ 837の画像) この車はグラハム ペイジ社創業者のグラハム兄弟から寄進された物で、コーチビルダーのルバロン(LeBaron)がボディを担当し、茶と銀色の絹織物と金の金具が使われた玉座が備え付けられていました。

 

 シトロエン C6は1929年に登場したフランスのシトロエン社の高級車で、6気筒2.4L(45HP)エンジンを登載し最高速105km/hの性能でした。以下の右側の画像は4気筒1.6L(30HP)エンジンを搭載したC4で、ボディ全長がやや短いですが、C6のベースとなったモデルです。このミニカーはユニバーサルホビー製です。教皇に寄進されたC6は、社長のアンドレ シトロエンが1930年に寄進したもので、シトロエン イタリアによる特注仕様車でした。この車はレストアされてバチカン博物館に保存されており、実車の画像を見ることが出来ます。(実車画像→ シトロエン C6 教皇車) 金メッキされたバンパーやラジエーターグリル、赤紫色のボディカラー、純金製金具とベルベット織物の豪華な内装などまさに特別仕様車です。(ただこの車を教皇が実際に使用されたのはたったの一度だけだったそうですが。。。)

isotta frasuchini 8a      citroen c4
ISOTTA FLASCHINI 8A 1924 RIO 1/43
CITROEN C4 1929 UNIVERSAL HOBBIES 1/43
   

 このように何台もの車が寄進されましたが、教皇が正式に使うようになった車はこの後に寄進されたメルセデス ベンツ 460 ニュルブルグでした。(寄進ではなく購入したという文献もある) 460 ニュルブルグは1928年に登場した全長4.9m車重2tの大型リムジーンで、当時のベンツの最上級車でした。ベンツ初の8気筒4.6L(80HP)エンジンを搭載し、4段変速で最高速100km/hの性能でした。左のミニカーはイクソ製で、教皇専用車の外観は車体のカラーリング以外はこれとほとんど同じです。

 

 1930年に寄進された460 ニュルブルグは、教皇用に特別に製作された特注車で、実車の画像をWEBサイトで見ることが出来ます。(実車画像

メルセデス ベンツ 460 教皇車) 前述したシトロエン C4のように金ピカの外観にはなっていないようですが、内装や玉座はシトロエン C4以上に豪華なように見えます。また運転手に指示を伝える為の操作板(速く、遅く、右、左、止まれなどのスイッチが並び指示がドライバーのメーターパネルに表示される)が備えられているのも興味深いです。これと同じ物が日本の天皇御料車(ベンツ770K)にも備わっていました。

benz 460
MERCEDES-BENZ 460 NURBURG 1931 IXO 1/43
   
 実際に教皇ピウス11世は乗り心地をお気に召して、この車を選択されたそうです。教皇はニュルブルグを試乗して、「A masterpiece of modern engineering」(現代技術の傑作)と評されたそうですから、格段の違いがあったのでしょう。旧式なイソッタ フラスキーニや大衆車がベースのシトロエン C6よりも、460 ニュルブルグの方が技術的に優れていたであろうことは容易に想像できます。この車をきっかけとして、メルセデス ベンツとローマ教皇庁との親密な関係が始まりました。メルセデス ベンツはその後75年間にわたって定期的にバチカンに教皇専用車を供給することになりました。

 

 なおバチカンは教皇専用車以外でも様々なメーカーの自動車を導入しています。教皇ピウス11世の次のピウス12世(1939-1958年)の時代には、キャディラック、リンカーン、クライスラーといったアメリカの高級車もたくさん(提供されたり)購入していたそうです。

 

 それらの1台と思われるキャディラックがWEB上にありました。(実車の情報) このキャディラックは1938年に登場したV型16気筒7.1L(185HP)エンジンを搭載した最上級の90シリーズで、このクーペ ド ヴィル形式のボディは少数しか生産されていません。ピウス12世やバチカン市国を訪れる著名人が市国内を移動する際に使ったそうです。画像はレックストイのミニカーで、ホワイトメタル製です。ドアに教皇庁の紋章が付いていて、制服姿のドライバーのフィギュアが乗っています」。また画像では分かりませんが、リアには教皇のフィギュアも乗っています。

cadillac v16 popemobile
GM CADILLAC 90 COUPE DE VILLE 1938 REXTOYS 1/43
 

戦後のローマ教皇専用車

 1939年のドイツのポーランド侵攻をきっかけとして始まった第二次世界大戦は1945年まで続きました。戦後の1950年代の教皇専用車に関する資料がないので、その頃の状況はわかりません。上述したベンツの460がまだ使われていたのかもしれませんし、戦勝国で勢いがあったアメリカの高級車が使われていたのかもしれません。

 

 敗戦の痛手から6年経った1951年のフランクフルト・ショーで、メルセデス ベンツ社は戦後初の高級車300を発表します。戦前の高級車グロッサー・メルセデスのように大きくはありませんが、近代的なデザインで高級車として十分な大きさでした。6気筒3L(115HP)エンジンを搭載し、最高速160km/hの性能でした。1956年には国家元首クラスのパレード用としてホイールベースを延長した特注ボディのカブリオレ Dが追加され、この車を使ってローマ教皇専用車が製作されました。この教皇専用車は1960年に当時の教皇ヨハネ23世(1958-1963年)にメルセデス ベンツ社が寄進しています。(→300D 教皇専用車の実車画像)

 

 この車の詳細は不明ですが、1960年代の車ですから、防弾などといった近代的な仕掛けは多分付いていません。後席部分が幌で開閉できるランドレッタ形式となっていて、その後席の中央に豪華な教皇の玉座が備え付けられています。(上記の実車画像のように、後席は完全なオープン状態になります)
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MERCEDES-BENZ 300D 1960 RIO 1/43 (カーソルを画像に載せてクリックすると画像が変わります)
 
 この車のミニカーはリオ製で1993年頃に発売されました。実車同様のランドレッタ形式が再現され、後席には立ち上がって挨拶している教皇のフィギュアが付いています。前フェンダーに立てられたバチカンの旗、「SCV1」のナンバープレートなども実車に即しています。なお「SCV」とはイタリア語で「バチカン」を意味する「Stato della Città del Vaticano」の略称です。 同じ車をノレブが最近(2012年3月)モデル化していますが、幌が閉じた状態で旗やフィギュアが付いていないという面白みのないモデルになっています。(正確には出来ていますが)

 

同時期にアメリカのフォード社がリンカーン コンチネンタル大統領専用車をベースにして1964年に教皇専用車を製作し、この車は1965年にパウロ6世(1963-1978年)がニューヨークを訪問した際に使用されています。(リンカーン コンチネンタル教皇専用車の実車画像)
 
 300の後継として1963年に発表されたのが、戦前のグロッサーメルセデスを復活させたかのような600でした。当時の最先端技術を駆使して設計され、考えられる限りの豪華装備を盛り込んだ最上級の車でした。ボディ・サイズは5540X1950X1510mmと当時のフルサイズのアメリカ車くらいの大きさで、さらに長いプルマン リムジンは6240mmで当時世界最大の自動車でした。エンジンは新設計の燃料噴射V型8気筒6.3L(300HP)で、4段自動変速機を介して車重2.5tを超える巨大な車体を200km/hまで引っ張りました。

 

 600 プルマン リムジンでもローマ教皇専用車が製作されました。教皇パウロ6世 (1963-1978年)の時代 1965年にメルセデス ベンツ社が寄進しています。(600 プルマン教皇専用車実車画像) Wikipediaによるとパウロ6世は「旅する教皇」と呼ばれたそうで、教皇として初めて5大陸をめぐる旅行をしています。また移動手段として航空機を初めて利用しました。それは上述した1965年のニューヨーク訪問の際で、さすがに教皇専用機というわけではなかったようですが、TWA(Trans World Airlines)のボーイング 737-300機でキャビン内部のシート配置などを教皇一行様向けに改造してあったそうです。

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MERCEDES-BENZ 600 PULLMAN 1965 VITESSE 1/43  (カーソルを画像に載せてクリックすると画像が変わります)
 
 600 プルマン教皇専用車の話に戻りますが、通常のプルマンよりも屋根が高く室内はその分だけ広くなっています。この車に関する詳細な仕様は不明ですが、時期的に防弾などの特殊な艤装などは施されていなかったと思われます。(たたんだ幌が巨大なので、多少防弾的な機能があったかもしれませんが) この車にも良くできたミニカーがあります。600 プルマンのミニカーは現在でも一級品の出来映えであるビテス製で、1994年ごろに発売されました。実車画像では黒いボディ・カラーしか見当たらないのですが、このミニカーは白になっています。これは私の憶測ですが、実際に白で塗装された車があったのではないかと思われます。(根拠は全くないのですが、最近の教皇専用車には白が多く、いかにもそれらしい見えますので) フェンダーにはバチカン国旗が掲げられ、ランドレー形式で開放されたリアの玉座にはよく出来た教皇パウロ6世のフィギュアが座っています。リアのアンテナはTV用と思われます。室内もそこそこそれらしく作ってあり、かなりの傑作ミニカーです。

 

 600 プルマンとほぼ同時期の1966年にも、600 プルマンと同じようなランドレー形式の300SELが教皇専用車として献上されているようです。この300SELの玉座は横に移動する機能があり(多分窓側に向ける機能)、その場合玉座の後方に側近用の補助シートが設定できたようです。同じような車が2台有ったわけですが、600 プルマンでは大きすぎて小回りがきかないような場所で300SELを使ったのでしょうか? さらに1967年にはランドレー形式ではないセダン型の300SEL(ストレッチド・リムジーン)も献上されているようで、似たような車が3台もあったことになります。 (さらにもう1台あったとの資料もあります)
 メルセデス ベンツ 300SEL 1966年 教皇専用車の画像 メルセデス ベンツ 300SEL 1967年 教皇専用車の画像 
 
 メルセデス ベンツ以外の教皇専用車もたくさんあったようですが、当方が所有するミニカーを2台紹介します。以下は2006年に発売されたリオ製のシトロエン DS 19 プレステージ 教皇専用車 ヨハネ23世(GIOVANNI XXIII) 1958 (1/43 型番4171/P)の画像です。 年式は1960年式の
citroen ds19 papamobile      citroen ds19 papamobile
 以下は2006年に発売されたGIOCHER製のフィアット カンパニョーラ II ローマ教皇専用車 ヨハネ パウロ2世 (1/40? 型番GR PM1)
fiat campagnola papamobile      fiat campagnola papamobile fig
 2015年06月  スマホ版ページ追加、  2022年06月 シトロエン DS19 ローマ教皇車とフィアット カンパニョーラ II ローマ教皇車追加
 以下 適時追加予定
 
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